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2010-08-12

法律ができればそれで終わり?

NHKの解説委員室副委員長の影山日出夫さん死亡のニュース。信じられませんでした。
「日曜日討論」でいつも勉強させてもらっている私としては、人生の師を失ってしまったとともに、死の原因が「自殺」であったことにショックが隠せません。それも職場であるNHK内での出来事。

毎年3万人以上の自殺者を出す「自殺大国日本」。現状、国・社会はその数字を「危機感」を持って見ているとは思えません。その対策や予防に、なぜもっと社会は真剣に取り組まないのでしょうか?メタボ検診よりも、最優先で「うつ病検診・対策」に取り組むべきです。

しかし、「国は、対策を行っていますよ!」そういう声が聞こえてきそうです。実際に「自殺対策基本法」が平成18年に施行され、国や自治体で法律に基づき、様々な取り組みもなされています。しかし、法律が施行され4年。自殺者数も減らなければ、国民の身近にその対策も行きわたってもいないのです。

私も産業医として、企業の中でメンタルケア(精神的な面の相談・対策役)をいたしておりますが、私の職場だけではなく、日本全国その現状はひどいものです。多種類の睡眠薬・抗うつ薬などを長年投与され、職場がストレスの原因と分かっていながら出勤をしているサラリーマンが多いこと。働きやすい職場を作ろうとすることが、まず第一の対策のはず。投薬だけを増やして、だましだまし勤務を続けさせる現状に問題があるのです。

かかりつけ医は、職場の人事にまで口をはさむことができません。だからこそ、「産業医」がいるのです。
産業医の役割は、病院の医師の仕事と全く違うのです。診療行為はいたしません。(大企業であれば、診療所医師と産業医を兼ねていることもあります。)「メタボ対策の口うるさいおじさん・おばさん」と思われている方も多いかと思いますが、それはほんの仕事の一部。職場環境の改善や従業員の健康維持管理のために企業や人事担当者、従業員本人に意見や助言をすることが、産業医の本来の役割です。

「最近ミスが多い部下がいるのだが」という相談を受ける場合もあります。「夜眠れず、遅刻が多い」という方と面談する場合もあります。健康診断の際の調査表の不眠・イライラなどにも注目し、異常値がない場合でも面談することもあります。肝臓の値が悪い時には、眠れないため毎晩深酒をしている人も多いのです。時には、家族とうまくいかないと相談されることも。

自殺という最悪の結果になる前に、「うつ」の傾向に気づけるきっかけは、まだまだあると思います。
会社では産業医や保健師・地域では保健所などの相談窓口や保健師の訪問・子ども達には児童相談所など。もっと医師も役所も「国民の心身の健康管理」に積極的に関わる必要があると思います。

うつ病の「病気の状態」は人それぞれ。だからこそ、うつ病と気付かない人も多いのです。おかしいなと思っても、精神科や心療内科は病院に入ることさえ抵抗がある人も多いはず。そこにもし、専門職が介入していたら防げる自殺も多いはずです。家族は身近過ぎるからこそ言えないし、変化に気づけないこともあるのです。

虐待でも高齢者の問題でも、もう一歩「個人」に踏み込む勇気が求められています。法律では、その勇気を生み出せません。

「うるさい」から「心配してくださってありがとうございます」。私も忠告を素直に聞けるように、いつでも心を開いていたいと思っています。

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プロフィール

薬師寺道代
(やくしじみちよ)
参議院議員
医師
(専門:生命倫理・医療政策・緩和医療・医療コミュニケーション)
NPO法人 からだとこころの発見塾 理事

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